2012年2月22日水曜日

Vilhelm Hammershøi


ハンマースホイ



「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」(1885)

「クレスチャンボー宮殿、晩秋」(1890 - 92)

読書する若い男のいる室内 (1898)

陽光、あるいは陽光に舞う塵 (1900)

『5人の肖像』(1901 - 02)

『ゲントフテ湖、天気雨』(1903)

背を向けた若い女性のいる室内 (1903-04)

『白い扉、あるいは開いた扉』(1905)

『室内、ストランゲーゼ25番地』

今回から、私に大きな影響を与えたアーティストを掲載します。

ヴィルヘルム・ハンマースホイ(Vilhelm Hammershøi)は、デンマークの画家である。作品は、白・黒・灰色を基調とした抑えた色調で、時間の止まったような静寂な空気を感じさせる細密なタッチの室内画が中心だ。室内風景画の多くには鑑賞者に背を向けた人物が描かれていて、その多くは彼の妻イーダである。
ハンマースホイは、生前にはデンマークを代表する画家として、特に国外で名声を得たが、その死後は急速に忘れられていった。再評価が始まったのはようやく20世紀末になってからであった。

ハンマースホイは1864年、コペンハーゲンの裕福な家庭に生まれる。1872年、8歳の時から個人レッスンでデッサンを学び始め、1879年からはコペンハーゲンの王立美術アカデミーで学んだ。
1885年、21歳の時、妹のアナを描いた『若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ』を王立美術アカデミーの展覧会に出品するが、アカデミーの授与するノイハウスン賞に落選したことで、当時の美術家の間に物議を醸し話題となる。『若い女性の肖像』は、黒と灰色を主調としたモノトーンに近い色彩、曖昧な空間表現、自由なタッチなどが当時のアカデミーの趣味に合致しなかった。
1888年には、コペンハーゲンの歯科医で美術コレクターでもあったアルフレズ・ブラムスンが初めてハンマースホイの作品を購入する。以後、ブラムスンはハンマースホイのコレクター・後援者として、生涯にわたり画家を支援した。ブラムスンは画家の生前にいくつかの展覧会を組織し、画家の没後には作品目録の作成や伝記執筆を行っている。
1891年にはアカデミーで知り合った画家ピーダ・イルステズの妹のイーダと結婚。彼女の姿はハンマースホイの多くの室内画に登場する。ハンマースホイはイーダとともに1898年から1909年までコペンハーゲン、ストランゲーゼ30番地のアパートで暮らした。
1908年にデンマーク王立美術アカデミーの総会会員に就任し、1910年には同評議員になる。1911年、ローマで開かれた国際美術展で第一等を獲得。1910年代に入ってヨーロッパ各国で個展が開かれるようになり、評価が進んだ。
1916年にコペンハーゲンで咽頭癌で死去。晩年のハンマースホイは病弱で、1914年に母を亡くしたショックもあり、この頃の作品には未完成のまま筆を置いたものが多い。死の前年の1915年には遺作となった『室内、ストランゲーゼ25番地』という1枚の絵を制作したのみであった。

ハンマースホイの絵画の大部分は室内風景画である。なかでも、1898年から1909年まで暮らしたコペンハーゲン、ストランゲーゼ30番地のアパートの室内を描いたものが多い。このアパートで制作された室内画には同じ部屋が繰り返し描かれ、アパートのどの部屋のどの位置から描かれたかが正確に特定できる。また、同じピアノ、テーブル、椅子、磁器製のパンチボウル、金属製のストーヴなどが多くの絵に繰り返し登場する。室内の様子には生活感や物語をうかがわせるものがほとんどない。室内に描かれる人物は1人か2人で、後ろ向きであることが多く、正面向きに描かれたとしても顔のタッチがほとんどぼかされるか影に入っているうえ、人物は鑑賞者と視線を合わせない。
さらには、人物のいない、無人の室内を描いた作品も少なくない。このように、ハンマースホイの絵はタイトル以外、解釈の手がかりをほとんど排除している。同じ室内を繰り返し描く点などフェルメールのオランダ絵画の影響が指摘されるが、白と黒を基調としたモノトーンに近い色使いと静謐な画面はハンマースホイ独自のものである。
室内画のほか、肖像画、風景画なども制作している。肖像画のモデルは家族と親しい友人に限られ、人物は鑑賞者と視線を合わせないように描かれることが多い。複数の人物を描いた集団肖像画においてもその点は同様で、画家の弟や友人らを描いた『5人の肖像』(1901 - 02年)では、描かれた5人の人物は互いに視線を交わすことなく、自らの内面と向き合っているようにみえる。宮殿などの建物や都市近郊の風景を題材にした風景画も制作しているが、ハンマースホイの描く風景には人物がほとんど登場しない。こうした静寂、寂寥感は、ジャンルや制作時期を問わず、ハンマースホイの作品全般に通じる特色である。

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