2010年11月16日火曜日

アルノルド・ベックリン





アルノルト・ベックリンは、19世紀末のフランス印象派が、戸外にキャンバスを持ち出し、外光の下で身近な風景を描き出した印象派の画家たちとは対照的に、文学、神話、聖書などを題材に、想像の世界を画面に表そうとする象徴主義の画家であった。
 ベックリンは1827年スイスのバーゼルで生まれたが、青年期以降はヨーロッパ各地を転々とし、生涯の大部分をドイツおよびイタリアで過ごしている。フィレンツェ時代は円熟期に、この作品「死の島」が生まれている。
 この作品は暗い空の下、墓地のある小さな孤島をめざし、白い棺を乗せた小舟が静かに進んでいくさまを描いた神秘的な作品である。彼自身、このモチーフに魅せられていたようで、その生涯にこの題材で5点の作品を残している。この作品に見られるように、写実的で緻密な描法と、画面にただよう神秘的・幻想的な雰囲気がベックリンの特色である。20世紀のシュルレアリスム絵画にも大きな影響を与えた。
 第一次世界大戦後のドイツでは、非常に人気があり、一般家庭の多くの家に、複製画が飾られていた。中でもこの「死の島」は特に人気が高かったと言われ、複製画の他にポストカードの題材としても盛んに使用された。アドルフ・ヒトラーも彼の作品を好み収集していた。

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