2010年11月18日木曜日

ジョン・エヴァレット・ミレー








 ラファエル前派の画家。歴史的・文学的主題を写実に基づく明るい色調と細密な手法で数多くの作品を手がける。中でもハムレットを典拠を得て制作した「オフィーリア」は同派の全作品の中でも屈指の傑作。
「オフィーリア」は、ウィリアム・シェイクスピアが手がけた四大悲劇≪ハムレット≫第4幕7章の一場面である。本場面は、デンマーク王子ハムレットが、父を毒殺して母と結婚した叔父に復讐を誓うものの、その思索的な性格のためになかなか決行できず、その間に恋人オフィーリアを狂死に追いやってしまう。オフィーリアは小川で溺死してしまうという内容で、ラファエル前派の画家やヴィクトリア朝の画家たちは同画題の作品を数多く制作している。ミレイもそれに則り本作を手がけたのであるが、後に同じラファエル前派の画家ロセッティの妻となったエリザベス・シッダルをモデルに、細密な写実描写で表現される死したオフィーリアの姿は、生と死の狭間にあってなお神々しいまでの美しさに満ちている。また本作の背景はサリー州ユーエルに程近いホッグスミル川の風景を元にして描かれているが、自然主義的な美的理念に基づき本背景の中に描写される草花には象徴的な意味が込められている。ヤナギは見捨てられた愛、イラクサは苦悩、ヒナギクは無垢、パンジーは愛の虚しさ、首飾りのスミレは誠実・純潔・夭折、ケシの花は死を意味している。
 画家の強い要望によりモデルを務めたエリザベス・シッダルは湯の張られたバスタブの中でポーズを取り続けた為に、ある日、風邪を拗らせてしまい、モデルの父親から治療費の支払いを請求されたという逸話も残されている。

0 件のコメント: